無権代理
2025年11月19日
『国家試験受験のためのよくわかる判例〔第2版〕』 西村和彦著・2024年9月6日
ISBNISBN 978-4-426-13029-9
ガイダンス
無権代理とは、代理権を有しない者(無権代理人)が代理行為をした場合をいいます。無権代理行為は、本人が追認をしなければ、本人に対してその効力を生じません(民法113条1項)。本人が追認を得られなかった無権代理人は、原則として、相手方の選択に従って履行責任または損害賠償責任を負います(117条1項)。
無権代理人の責任の性質
■事件の概要
Xは、Aに金銭を貸し付けたが、貸付金は、Aが倒産したため、返済されなかった。そこで、Xは、Aに対する貸付について連帯保証人となっていたBに対し、保証債務の履行を求めた。しかし、Bは連帯保証人欄の署名押印の事実を自らなかったため、連帯保証人の責任を負わないとする判決が確定した。そこで、Xは、Bの長男Yに対し、連帯保証契約はYの無権代理行為であるとして、Yに対し、無権代理人の責任(民法117条)を理由として、履行責任(連帯保証人と同一内容の履行義務)を求める訴えを提起した。
判例ナビ
第1審がXの請求を認容したため、Yは、控訴しました。控訴審において、Yは、「XにはYに代理権がないことを知らなかったことについて過失がある」と主張したのに対し、控訴審は、民法117条2項(平成29年民法改正前)の「過失」は重大な過失を意味すると解釈した上で、Xには重大な過失はなかったとして、Yの請求を認容しました。そこで、Yが上告しました。
■裁判所の判断
民法117条による無権代理人の責任は、無権代理人が相手方に対し代理権がある旨を表示し又は自己を代理人であると信じさせるような行為をした事実を責任の根拠として、相手方の保護と取引の安全並びに代理制度の信用保持のために、法律が特別に認めた無過失責任であり、同条2項(平成29年改正前)が「前項の規定は、他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき、若しくは過失によって知らなかったときは、適用しない」と規定しているのは、同条1項が無権代理人に重い責任を負わせたことにかんがみ、相手方において代理権のないことを知っていたとき、もしくはこれを知らなかったことにつき過失があるときは、同条の保護に値しないものとして、無権代理人の免責を認めたものと解されるのであって、その趣旨に徴すると、右の「過失」は重大な過失に限定されるべきものではないと解するのが相当である。また、表見代理の成立が認められ、代理行為の法律効果が本人に及ぶことが裁判上確定した場合に、無権代理人の責任を認める余地がないことはいうまでもないから、無権代理人の責任をもって表見代理が成立しない場合における補充的な責任すなわち表見代理によっては保護を受けることのできない相手方を救済するための制度であると解すべき根拠もなく、両制度は、互いに独立した制度であるとの解するのが相当である。したがって、無権代理人の責任の要件と表見代理の要件がともに存在する場合においても、表見代理の主張をすることは相手方の自由であると解すべきであるから、相手方は、表見代理の主張をしないで、直ちに無権代理人に対し同法117条の責任を問うことができるものと解するのが相当である。そして、表見代理は本来相手方保護のための制度であるから、無権代理人が表見代理の成立要件を主張立証して自己の責任を免れることは、制度本来の趣旨に反するというべきであり、したがって、右の場合、無権代理人は、表見代理が成立することを抗弁として主張することはできないものと解するのが相当である。
ことを知らずしたがって、Xには、旧民法117条2項(平成29年改正前)の「過失」を重大な過失に限らず、文言どおり、過失の意味であるとしました。
解説
本判決は、117条2項(平成29年改正前)の「過失」を重大な過失に限らず、文言どおり、過失の意味であるとした。この考えは、現行117条でも維持されています。また、本判決は、無権代理人の責任は表見代理が成立しない場合の補充的な責任ではなく、両者の要件をともに満たす場合には、相手方は無権代理人の責任または表見代理に基づく本人への責任のいずれかを選択して追及できるとしています。
過去問
問 第117条1項による無権代理人の責任は、法律が特別に認めた無過失責任であり、同条第1項が無権代理人に重い責任を負わせた一方、同条第2項は相手方保護に値しないときは無権代理人の免責を認めた趣旨であると解すると、無権代理人の免責要件である相手方の過失については、重大な過失に限定されるべきものではない。
1 〇 判例は、民法117条の無権代理人の責任は、相手方の保護と取引の安全ならびに代理制度の信用保持のために、法律が特別に認めた無過失責任であるとしています。
本人の無権代理人単独相続
■事件の概要
Aは、Yの代理する権限がないにもかかわらずYの代理人としてY所有の建物(本件建物)をXに売り渡し、登記も移転した。その後、Aが死亡し、Aを単独相続したYは、Xに対し、Aの無権代理行為を理由に本件建物の所有権移転登記抹消手続を請求する訴えを提起し、Y勝訴の判決が確定してX名義の登記は抹消された。
判例ナビ
XがYに対し本件建物の所有権移転登記手続を請求する訴えを提起したため、Yは、Xに対し本件建物の明渡しを求める反訴を提起しました。第1審は、Xの請求を認容し、Yの反訴請求を一部認容しましたが、控訴審は、Xの請求を認容し、第1審判決のYの反訴請求を認容した部分を取り消したため、Yが上告しました。
■裁判所の判断
無権代理人が本人を相続した場合においては、自らした無権代理行為につき本人の資格において追認を拒絶する余地を認めるのは信義則に反するから、右無権代理行為は相続と共に当然有効になると解するのが相当である。無権代理人を本人が相続した場合には、これと同様に論ずることはできない。後者の場合においては、相続人たる本人が被相続人の無権代理行為の追認を拒絶しても、何ら信義則に反するところはないから、被相続人の無権代理行為は一般に本人の相続により当然有効となるものではないと解するのが相当である。
解説
本判例と逆のケース、すなわち、無権代理人が本人を単独相続した場合には、本判決以前に、無権代理行為は相続によって当然に有効となるとする判決がありました。これに対し、本判決は、本人が無権代理人を単独相続した場合と無権代理人が本人を単独相続した場合とを区別し、前者の場合について、無権代理行為は相続によって当然に有効となるものではないことを明らかにしました。
この分野の重要判例
◆無権代理人を相続した本人の責任
民法117条による無権代理人の債務が相続の対象となることは明らかであって、このことは本人が無権代理人を相続した場合でも異ならないから、本人は相続により無権代理人の有する無権代理人の責任を承継します。本人として無権代理行為の追認を拒絶できる地位にあったからといつて右債務を免れることはできないと解すべきである。
◆無権代理人の本人共同相続
無権代理人が本人を他の相続人と共に共同相続した場合において、無権代理行為を追認する権利は、その性質上相続人全員に不可分的に帰属する。そして、無権代理行為の追認は、本人に対して効力を生じていなかった法律行為を本人に対する関係において有効なものにするという効果を生じさせるものであるから、共同相続人全員が共同してこれを行使しない限り、無権代理行為が有効となるものではないと解すべきである。そうすると、他の共同相続人全員が無権代理行為の追認をしている場合に無権代理人の追認を拒絶することは信義則上許されないとしても、他の共同相続人全員の追認がない限り、無権代理行為は、無権代理人の相続分に相当する部分においても、当然に有効となるものではない。そして、以上のことは、無権代理行為が金銭債務の連帯保証契約についてされた場合においても同様である。
解説
無権代理人が本人を単独相続した場合については、本判決以前に、無権代理行為は相続によって当然に有効となるとする判決がありました。本判決は、無権代理人が本人を共同相続した場合について、無権代理行為を追認する権利は相続人全員に不可分的に帰属するとしたうえで、共同相続人全員が追認しない限り、無権代理行為は有効とならないとしました。
◆追認を拒絶した本人を相続した無権代理人
本人が無権代理行為の追認を拒絶した場合には、その後に無権代理人が本人を相続したとしても、無権代理行為が当然に有効となるものではないと解するのが相当である。ただし、無権代理人がした行為は、本人がその追認をしなければ本人に対してその効力を生ぜず(民法113条1項)、本人が追認を拒絶すれば無権代理行為の効力が本人に及ばないことが確定し、追認拒絶の後は本人であっても追認によって無権代理行為を有効とすることができず、右追認拒絶の後に無権代理人が本人を相続したとしても、右追認拒絶の効果に何ら影響を及ぼすものではないからである。このように解すると、本人が追認拒絶をした後に無権代理人が本人を相続した場合と本人が追認拒絶をする前に無権代理人が本人を相続した場合とで法律効果に相違が生ずることになるが、本人の追認拒絶の有無によって右の相違を生ずることはやむを得ないところであり、相続した無権代理人が本人の追認拒絶の効果を主張することがそれ自体信義誠実に反するものであるということはできない。
過去問
1 A所有の甲土地につき、Aから売却に関する代理権を与えられていないBが、Aの代理人として、Cとの間で売買契約を締結した。Bの死亡により、AがBの唯一の相続人として相続した場合、AがBの無権代理行為の追認を拒絶しても信義則には反せず、AC間の売買契約が当然に有効になるわけではない。
2 甲土地はAの所有に属していたところ、Aの父であるBが、Aに無断でAの代理人として甲土地をBが買い受ける旨の契約を締結し、その後にBが死亡してAがBを単独で相続したときは、Aは、Bの法律行為の追認を拒絶することができ、また、損害賠償の責任を免れる。
3 無権代理人と他の相続人が本人を共同して相続した場合、他の共同相続人全員の追認がなくても、無権代理人の相続分に該当する部分については、当然に有効になる。
4 Aの所有する甲土地につき、Aの長男BがAに無断でCとAの代理人と称してCに売却した。Aが本件売買契約につき追認を拒絶した後に死亡してBが単独相続した場合、Bは本件売買契約の追認を拒絶することができないため、本件売買契約は有効となる。
1 〇 本人が無権代理人を相続した場合、判例は、本人が被相続人の無権代理行為の追認を拒絶しても、何ら信義則に反するところはないから、無権代理行為は本人の相続により当然に有効になるものではないとしています。
2 × 本人は無権代理行為の追認を拒絶することができますが、その一方で民法117条による無権代理人の責任を承継します。したがって、Aは、損害賠償責任を免れるわけではありません。
3 × 他の共同相続人全員の追認がない限り、無権代理行為は、無権代理人の相続分に相当する部分においても当然に有効とはなりません。
4 × 本人が無権代理行為の追認を拒絶した場合には、その後に無権代理人が本人を相続したとしても、無権代理行為が有効になるものではありません。
無権代理とは、代理権を有しない者(無権代理人)が代理行為をした場合をいいます。無権代理行為は、本人が追認をしなければ、本人に対してその効力を生じません(民法113条1項)。本人が追認を得られなかった無権代理人は、原則として、相手方の選択に従って履行責任または損害賠償責任を負います(117条1項)。
無権代理人の責任の性質
■事件の概要
Xは、Aに金銭を貸し付けたが、貸付金は、Aが倒産したため、返済されなかった。そこで、Xは、Aに対する貸付について連帯保証人となっていたBに対し、保証債務の履行を求めた。しかし、Bは連帯保証人欄の署名押印の事実を自らなかったため、連帯保証人の責任を負わないとする判決が確定した。そこで、Xは、Bの長男Yに対し、連帯保証契約はYの無権代理行為であるとして、Yに対し、無権代理人の責任(民法117条)を理由として、履行責任(連帯保証人と同一内容の履行義務)を求める訴えを提起した。
判例ナビ
第1審がXの請求を認容したため、Yは、控訴しました。控訴審において、Yは、「XにはYに代理権がないことを知らなかったことについて過失がある」と主張したのに対し、控訴審は、民法117条2項(平成29年民法改正前)の「過失」は重大な過失を意味すると解釈した上で、Xには重大な過失はなかったとして、Yの請求を認容しました。そこで、Yが上告しました。
■裁判所の判断
民法117条による無権代理人の責任は、無権代理人が相手方に対し代理権がある旨を表示し又は自己を代理人であると信じさせるような行為をした事実を責任の根拠として、相手方の保護と取引の安全並びに代理制度の信用保持のために、法律が特別に認めた無過失責任であり、同条2項(平成29年改正前)が「前項の規定は、他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき、若しくは過失によって知らなかったときは、適用しない」と規定しているのは、同条1項が無権代理人に重い責任を負わせたことにかんがみ、相手方において代理権のないことを知っていたとき、もしくはこれを知らなかったことにつき過失があるときは、同条の保護に値しないものとして、無権代理人の免責を認めたものと解されるのであって、その趣旨に徴すると、右の「過失」は重大な過失に限定されるべきものではないと解するのが相当である。また、表見代理の成立が認められ、代理行為の法律効果が本人に及ぶことが裁判上確定した場合に、無権代理人の責任を認める余地がないことはいうまでもないから、無権代理人の責任をもって表見代理が成立しない場合における補充的な責任すなわち表見代理によっては保護を受けることのできない相手方を救済するための制度であると解すべき根拠もなく、両制度は、互いに独立した制度であるとの解するのが相当である。したがって、無権代理人の責任の要件と表見代理の要件がともに存在する場合においても、表見代理の主張をすることは相手方の自由であると解すべきであるから、相手方は、表見代理の主張をしないで、直ちに無権代理人に対し同法117条の責任を問うことができるものと解するのが相当である。そして、表見代理は本来相手方保護のための制度であるから、無権代理人が表見代理の成立要件を主張立証して自己の責任を免れることは、制度本来の趣旨に反するというべきであり、したがって、右の場合、無権代理人は、表見代理が成立することを抗弁として主張することはできないものと解するのが相当である。
ことを知らずしたがって、Xには、旧民法117条2項(平成29年改正前)の「過失」を重大な過失に限らず、文言どおり、過失の意味であるとしました。
解説
本判決は、117条2項(平成29年改正前)の「過失」を重大な過失に限らず、文言どおり、過失の意味であるとした。この考えは、現行117条でも維持されています。また、本判決は、無権代理人の責任は表見代理が成立しない場合の補充的な責任ではなく、両者の要件をともに満たす場合には、相手方は無権代理人の責任または表見代理に基づく本人への責任のいずれかを選択して追及できるとしています。
過去問
問 第117条1項による無権代理人の責任は、法律が特別に認めた無過失責任であり、同条第1項が無権代理人に重い責任を負わせた一方、同条第2項は相手方保護に値しないときは無権代理人の免責を認めた趣旨であると解すると、無権代理人の免責要件である相手方の過失については、重大な過失に限定されるべきものではない。
1 〇 判例は、民法117条の無権代理人の責任は、相手方の保護と取引の安全ならびに代理制度の信用保持のために、法律が特別に認めた無過失責任であるとしています。
本人の無権代理人単独相続
■事件の概要
Aは、Yの代理する権限がないにもかかわらずYの代理人としてY所有の建物(本件建物)をXに売り渡し、登記も移転した。その後、Aが死亡し、Aを単独相続したYは、Xに対し、Aの無権代理行為を理由に本件建物の所有権移転登記抹消手続を請求する訴えを提起し、Y勝訴の判決が確定してX名義の登記は抹消された。
判例ナビ
XがYに対し本件建物の所有権移転登記手続を請求する訴えを提起したため、Yは、Xに対し本件建物の明渡しを求める反訴を提起しました。第1審は、Xの請求を認容し、Yの反訴請求を一部認容しましたが、控訴審は、Xの請求を認容し、第1審判決のYの反訴請求を認容した部分を取り消したため、Yが上告しました。
■裁判所の判断
無権代理人が本人を相続した場合においては、自らした無権代理行為につき本人の資格において追認を拒絶する余地を認めるのは信義則に反するから、右無権代理行為は相続と共に当然有効になると解するのが相当である。無権代理人を本人が相続した場合には、これと同様に論ずることはできない。後者の場合においては、相続人たる本人が被相続人の無権代理行為の追認を拒絶しても、何ら信義則に反するところはないから、被相続人の無権代理行為は一般に本人の相続により当然有効となるものではないと解するのが相当である。
解説
本判例と逆のケース、すなわち、無権代理人が本人を単独相続した場合には、本判決以前に、無権代理行為は相続によって当然に有効となるとする判決がありました。これに対し、本判決は、本人が無権代理人を単独相続した場合と無権代理人が本人を単独相続した場合とを区別し、前者の場合について、無権代理行為は相続によって当然に有効となるものではないことを明らかにしました。
この分野の重要判例
◆無権代理人を相続した本人の責任
民法117条による無権代理人の債務が相続の対象となることは明らかであって、このことは本人が無権代理人を相続した場合でも異ならないから、本人は相続により無権代理人の有する無権代理人の責任を承継します。本人として無権代理行為の追認を拒絶できる地位にあったからといつて右債務を免れることはできないと解すべきである。
◆無権代理人の本人共同相続
無権代理人が本人を他の相続人と共に共同相続した場合において、無権代理行為を追認する権利は、その性質上相続人全員に不可分的に帰属する。そして、無権代理行為の追認は、本人に対して効力を生じていなかった法律行為を本人に対する関係において有効なものにするという効果を生じさせるものであるから、共同相続人全員が共同してこれを行使しない限り、無権代理行為が有効となるものではないと解すべきである。そうすると、他の共同相続人全員が無権代理行為の追認をしている場合に無権代理人の追認を拒絶することは信義則上許されないとしても、他の共同相続人全員の追認がない限り、無権代理行為は、無権代理人の相続分に相当する部分においても、当然に有効となるものではない。そして、以上のことは、無権代理行為が金銭債務の連帯保証契約についてされた場合においても同様である。
解説
無権代理人が本人を単独相続した場合については、本判決以前に、無権代理行為は相続によって当然に有効となるとする判決がありました。本判決は、無権代理人が本人を共同相続した場合について、無権代理行為を追認する権利は相続人全員に不可分的に帰属するとしたうえで、共同相続人全員が追認しない限り、無権代理行為は有効とならないとしました。
◆追認を拒絶した本人を相続した無権代理人
本人が無権代理行為の追認を拒絶した場合には、その後に無権代理人が本人を相続したとしても、無権代理行為が当然に有効となるものではないと解するのが相当である。ただし、無権代理人がした行為は、本人がその追認をしなければ本人に対してその効力を生ぜず(民法113条1項)、本人が追認を拒絶すれば無権代理行為の効力が本人に及ばないことが確定し、追認拒絶の後は本人であっても追認によって無権代理行為を有効とすることができず、右追認拒絶の後に無権代理人が本人を相続したとしても、右追認拒絶の効果に何ら影響を及ぼすものではないからである。このように解すると、本人が追認拒絶をした後に無権代理人が本人を相続した場合と本人が追認拒絶をする前に無権代理人が本人を相続した場合とで法律効果に相違が生ずることになるが、本人の追認拒絶の有無によって右の相違を生ずることはやむを得ないところであり、相続した無権代理人が本人の追認拒絶の効果を主張することがそれ自体信義誠実に反するものであるということはできない。
過去問
1 A所有の甲土地につき、Aから売却に関する代理権を与えられていないBが、Aの代理人として、Cとの間で売買契約を締結した。Bの死亡により、AがBの唯一の相続人として相続した場合、AがBの無権代理行為の追認を拒絶しても信義則には反せず、AC間の売買契約が当然に有効になるわけではない。
2 甲土地はAの所有に属していたところ、Aの父であるBが、Aに無断でAの代理人として甲土地をBが買い受ける旨の契約を締結し、その後にBが死亡してAがBを単独で相続したときは、Aは、Bの法律行為の追認を拒絶することができ、また、損害賠償の責任を免れる。
3 無権代理人と他の相続人が本人を共同して相続した場合、他の共同相続人全員の追認がなくても、無権代理人の相続分に該当する部分については、当然に有効になる。
4 Aの所有する甲土地につき、Aの長男BがAに無断でCとAの代理人と称してCに売却した。Aが本件売買契約につき追認を拒絶した後に死亡してBが単独相続した場合、Bは本件売買契約の追認を拒絶することができないため、本件売買契約は有効となる。
1 〇 本人が無権代理人を相続した場合、判例は、本人が被相続人の無権代理行為の追認を拒絶しても、何ら信義則に反するところはないから、無権代理行為は本人の相続により当然に有効になるものではないとしています。
2 × 本人は無権代理行為の追認を拒絶することができますが、その一方で民法117条による無権代理人の責任を承継します。したがって、Aは、損害賠償責任を免れるわけではありません。
3 × 他の共同相続人全員の追認がない限り、無権代理行為は、無権代理人の相続分に相当する部分においても当然に有効とはなりません。
4 × 本人が無権代理行為の追認を拒絶した場合には、その後に無権代理人が本人を相続したとしても、無権代理行為が有効になるものではありません。